黒森 崇Takashi KUROMORI

上級研究員
理学博士

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略歴

  • 東京大学理学部生物化学科 卒業
  • 東京大学大学院理学系研究科生物化学専攻 博士課程修了
  • 基礎生物学研究所細胞増殖研究部門 非常勤講師
  • University of Chicago, Division of Biological Science Research Associate
  • 理化学研究所ゲノム科学総合研究センター 研究員
  • 横浜市立大学生体超分子科学専攻 客員研究員
  • 理化学研究所植物科学研究センター 研究員
  • 理化学研究所植物科学研究センター 上級研究員
  • 東京大学農学生命科学研究科 農学研究員
  • 理化学研究所環境資源科学研究センター 上級研究員
  • 青山学院大学理工学部化学生命科学科 客員教授
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研究キーワード

  • ファンクショナル・ゲノミクス、植物生理、生体膜機能
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研究紹介

生体物質輸送とネットワークの解析

これまで細胞シグナル伝達に関する研究では、主に細胞内での事象が取り上げられてきました(図の左側、細胞内シグナル伝達機構)。一方で、それと同時に細胞外へシグナルを伝えるネットワークが存在しており、実はこのような生体内物質ネットワークが個体レベルでの反応や生長を制御しています。動物植物に関わらず膜輸送体(トランスポーター)は物質輸送制御のキー因子の一つであり、遺伝子機能解析対象として注目しております。
細胞内シグナル伝達機構

トランスポーターの遺伝子機能解析

脂質二重層を単純拡散で透過できる分子は限られているため、膜を介した生体物質輸送には膜タンパク質が必要です。受動輸送はチャネルおよびキャリアにより、能動輸送はポンプにより促進されます。例えば、シロイヌナズナでは、およそ1,000個のトランスポーターが存在しますが、どのトランスポーターがどの基質を運ぶのか、トランスポーターと輸送される分子の組み合わせが分かっている例はあまり多くありません。
Essential 細胞生物学(第四版)図

トランスポーターを介した生理活性物質の輸送制御

これまでに膜輸送体と基質を解析した例です。左側は、葉の断面で、アブシジン酸(ABA)の維管束組織から表皮組織(孔辺細胞)への組織間輸送伝播制御を、ABA輸送因子とともに示したものです。右側は、葉肉細胞内で、ビタミンCがミトコンドリアから葉緑体へ移動する経路を表したものです。葉緑体ではカルテノイド変換に働きます。
トランスポーターを介した生理活性物質の輸送制御の図

トランスポーターを利用した応用研究と植物機能向上

植物のストレス・ホルモンであるアブシジン酸(ABA)の輸送体を植物に導入すると、水利用効率が向上することが分かりました。上の写真は植物体を赤外線サーモグラフィーで撮影したもので、蒸散量が抑制されていることが観察できます。下の写真は水分ストレスを与えた後、乾燥耐性が向上していることを示しています。通常、ストレス耐性が付与される場合、生育阻害の副作用が起きますが、今回の試みでは全く生育阻害が見られていません。このことから、輸送体制御による水利用効率の向上は、乾燥耐性と生長制御の共存を図る新たな有用形質の付加手法に貢献できると考えています。
トランスポーターを利用した応用研究と植物機能向上の図

膜輸送体の基質輸送活性アッセイ

この模式図は、昆虫培養細胞を利用した基質輸送活性測定法を示しています。目的のトランスポーターを発現させた細胞の培養液に輸送基質となるラベルされた化合物を加えて一定時間インキュベーションします。その後、フィルトレーションにより細胞のみを集め、細胞に残ったカウントを測定するという方法です。トランスポーターにより、基質が取り込まれればカウントが高くなり、排出されれば低くなります。簡便に膜輸送体の機能アッセイができる手法として用いています。
細胞内シグナル伝達機構

生命体を成り立たせる生体膜の機能解析

生体膜により「分離・分画」されることで、個々の細胞や細胞内の全てのオルガネラは、その機能分担を可能としています。また、外界と接している生体膜は他の細胞や環境要因を「情報統合」してシグナル伝達をスタートされる起点として働きます。さらに、生体膜の「物質輸送」は個体を成立させるネットワークにおいて様々な生体物質の交換と制御を担っています。加えて、ATP合成や光合成を例として、生体膜は「酵素反応場」として代謝・反応を促進する機能が備わっています。このように生体膜は多くの生命現象に直接的に関係しており、そのダイナミックで多様な機能は生命活動の源であるといえます。
生命体を成り立たせる生体膜の機能解析

主要論文